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京都地方裁判所 昭和42年(手ワ)406号 判決

原告

株式会社上海木工工芸社

右代表者

駿見正明

被告

山下武男

主文

被告は原告に対し金一五〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和四二年八月二三日から支払済まで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

本判決は仮りに執行できる。

事実

原告代表者は、主文同旨の判決を求め、その請求原因として、

「一、原告は、被告が受取人欄白地で振出した左記約束手形一通(本件手形)の所持人である。

金  額 一五〇、〇〇〇円

支払期日 昭和四二年四月一〇日

支払地 京都市

支払場所 株式会社滋賀銀行九条支店

振出日 昭和四二年四月八日

振出人 京都市南区吉祥院西ノ内町二七番地 山下武男(被告)

受取人 細柳 清(ただし、「竹内辰二」という記載が、一本の横線で抹消された後、「細柳清」と記載されている。いずれもインクによる記載。)

第一裏書(白地式)裏書人 細柳  清

第二裏書(白地式)裏書人 中野喜八郎

第三裏書(白地式)裏書人 株式会社上海木工工芸社(原告)代表取締役 駿見 正明

二、よつて、原告は、被告に対し、本件手形金一五〇、〇〇〇円およびこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和四二年八月二三日から支払済まで年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。」と述べ、被告の主張に対し、

「三、訴外竹内辰二は、細柳清の第一裏書のなされた本件手形を取得し、受取人欄に「竹内辰二」と誤つて補充したので、「細柳清と」訂正した。」

と述べた。

被告は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、

「一、原告主張の一の事実は認める。

二、被告は、受取人欄および振出日欄白地で、本件手形を振出したのであるが、手形所持人によつて、受取人欄が「竹内辰二」と補充された後、原告の承諾なしに、「竹内辰二」の記載が抹抹消され、「細柳清」と記載されたのであるから、被告は、原告に対し、本件手形金支払の義務がないと述べた。」

理由

原告主張の一の事実は被告の認めるとろである。

手形の裏書の被裏書人の記載だけが抹消されているとき、当該裏書は白地式裏書としての効力があり(大審院昭和六年五月二三日判決、新聞三二八一号一一頁。大阪高等裁判所昭和三六年一一月二二日第八民事部判決、高裁民集一四巻八号五五一頁)、手形の裏書の被裏書人欄に、いつたんなされたAの記載が抹消され、Bと記載されているとき、裏書の連続について、Bに対する記名式裏書がある(大審院昭和二年六月一四日判決、民集六巻六二九頁)、と解するのが相当である。

本件のように、Yが受取人欄白地で約束手形を振出した場合、受取人欄に、いつたんなされたAの記載が抹消され、Bと記載されているとき、裏書の連続について、受取人欄にBの記載がある、と解するのが相当である。

けだし、上記の、被裏書人欄の記載の変更の場合と、本件のような、受取人欄の記載の変更の場合とを異別に解すべき理由がないからである。

最高裁判所昭和四一年一一月一〇日第一小法廷判決(民集二〇巻九号一六九七頁)は、「一、約束手形の受取人欄の記載が無権限で抹消された場合は手形の変造にあたり、振出人は、変造前の文言に従つて責任を負う。二、前項の場合、変造後の当該手形の所持人は、当初の受取人から同手形を取得した経路とその取得をもつて振出人に対抗しうる事由を主張立証しないかぎり、振出人に対し手形金の支払を請求することができない。(判決要旨)」と判示しているが、この最高裁判所判決の事件は、Yが受取人欄にAと記載して約束手形を振出した点において、Yが受取人欄白地で約束手形を振出した本件とは、差異がある。のみならず、受取人の記載は、権利の内容に関するものでなく、権利の所属に関するものであるから、受取人の記載の変更は、被裏書人の記載の変更と同じく、手形法第六九条にいう変造に該当しないと解するのが相当である。

したがつて、本件手形の受取人欄の記載と第一裏書人との間に裏書の連続がある。

手形の最後の裏書まで裏書の連続があり、最後の裏書が白地式裏書である場合、白地式で最後の裏書をした裏書人が現に右手形を所持するとき、右裏書人は右手形の適法の所持人であると解するのが相当である。

したがつて、現に本件手形を所持している原告は、本件手形の適法の所持人である、と認められる。

よつて、本件手形金一五〇、〇〇〇円およびこれに対する訴状送達の日の翌日であること記録上明かな昭和四二年八月二三日から支払済まで年六分の割合による遅延損害金の支払を求める本訴請求を正当として認容し、民事訴訟法第八九条、第一九六条を適用し主文のとおり判決する。(小西 勝)

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